63作目の新曲MV「ねぇ先生、こっちを見てよ」を公開しました。小学生の女の子が担任の先生に恋をする、ちいさくて大きな初恋の歌です。3分47秒、全編AIアニメーションのオリジナル曲。この記事では歌詞の全文と、今回のMVをどう作ったか、どこで盛大に転んだかの裏側を書きます。

先に言っておくと、今回は今までで一番「作り直した」回です。一度は完成と思った版を自分で全ボツにして、顔を統一し、字幕をミリ秒で合わせ直し、存在しなかったシーンを2つ発明しました。同じようにAIでMVを作る人の役に立てばうれしいです。

INDEX — 目次
  1. この曲について
  2. 歌詞(フル)
  3. 作り方1: 歌声の波形から、字幕をミリ秒で合わせる
  4. 作り方2: 顔がまざった。全カット作り直した
  5. 作り方3: 小指のやくそくと、ピンクの髪の事故
  6. 作り方4: 存在しないシーンは、実フレームから発明する
  7. 作り方5: 「止まらないMV」を数字で保証する
  8. 前日談: 一度ぜんぶ捨てた
  9. こぼれ話: 眠っていた27本の動画
  10. こだわり: タイトルロゴとサムネイル
  11. あとがき
  12. 編集とスタッフロール
  13. 技術メモ: 今回使ったもの
  14. 楽曲配信

この曲について

「こどもの頃、先生をすきになったことはありますか」という問いから生まれた曲です。おとなになってから思い出すと少しくすぐったくて、でもあの頃は世界でいちばん真剣だった気持ち。それを、ひらがなの多いことばとやわらかいメロディーに閉じこめました。

主人公の彼女は、おはなも、ねこも、ハンバーグも大好き。でも先生は「とくべつ」。わざと「わかんない」と手をあげるのは、先生がとなりに来てくれるから。ほめられても頭をなでられるだけで、わたし、わんちゃんじゃないのにな、とふくれる。この「うれしいけど、なんだかちがう」の解像度が、この曲の全部です。

夕方の教室のわたし ©amanojak
夕方の教室のわたし ©amanojak

歌詞(フル)

おはなも好きだし ねこも好き
ハンバーグはもっと好き
でもね、せんせいは「とくべつ」なの
「おはよう」って言えた日は いちんちハッピー
にがてな算数も がんばれちゃうんだ
このきもち、なんていうのかな?
がっこうにいくと ワクワクしちゃう
だって、先生に会えるから
こくばんの字が おどってるみたい
わざと「わかんない」って手をあげるの
先生がとなりに来てくれるから
そのときだけ、わたしだけの先生
先生のとなりは、ふしぎなにおい
「コーヒーのにおいがする」ってママが言ってた
ちょっとにがそうで、おとなのあじ
わたしもはやく、のんでみたいな
先生のうでどけい、かっこいいな
むずかしい本も、いっぱい知ってる
お母さんのルージュ、こっそりぬってみた
にあわないって、わかってるけど…
ノートのはしっこに描いたハート
おとなのマネして描いてみたけど
ちょっとはずかしくて、すぐけしたよ
すこしでも、おとなに、みえるかな?
ねぇ、先生、先生 こっちむいて
「よしよし」って、しないでほしい
わたし、わんちゃんじゃないのにな
うれしいけど、なんだかちがう
むねのあたりが、きゅーってなるの
これって、おなかすいたのかな?
ねぇ、先生、先生 わたしのこと
ちゃんと「おんなのこ」ってわかってる?
先生がほかのことお話してると
わたしの好きなもの、とられちゃう気がするの
ハンバーグも、ねこも、だれにもあげない
先生のことも、あげたくないな
お父さんとは違う、やさしいひと
ずっと先生のこと、いつも見てるんだよ
知ってる?きっと知らないよね
私が大人になるまで、まっててくれる…?
やくそく、できる…?
だから決めたの、はやく大きくなるって
にがいコーヒー、へいきで飲めるようになる
先生のとなりを歩ける、その日まで
この「きゅー」ってなるきもち、わたしの宝物
せんせい…すきになっても、いいですか…?

作り方1: 歌声の波形から、字幕をミリ秒で合わせる

今回の編集の背骨は「歌詞46行の全部を、実際に歌っている瞬間に出す」ことです。曲からボーカルだけをAIで分離して、歌っている区間を波形から実測しました。字幕も、カットの切り替えも、この実測タイムラインに乗せています。

一番の難所は「がっこうにいくと ワクワクしちゃう」の一行でした。自動のタイムスタンプ認識が間奏をまたいで25秒もこの行を表示する判定を出していて、初期の版では間奏のあいだずっと字幕が出っぱなし。波形を10ミリ秒刻みで調べ直して、本当の歌い出しが43.285秒だと確定させました。最終的には、無音の間奏には字幕ゼロ、歌の再開と同じフレームで字幕が点く、まで追い込んでいます。

ついでに白状すると、完成直前にも音声全体が約0.1秒ズレて出力される事故を起こしました。原因は動画の書き出し設定の差分。元音源との波形の相互相関でズレを数値化して、ズレ0.05ミリ秒まで戻して納品しています。耳のいい人には一瞬でバレるので、ここは数字で潰すのが正解でした。

作り方2: 顔がまざった。全カット作り直した

一度「完成」と思った版には、致命的な欠陥がありました。制作時期の違う2系統の生成素材を混ぜたせいで、カットによって女の子の顔が違うんです。映画調の顔と、大きな瞳のアニメ顔。1本のMVの中で主人公が別人になる。気づいた瞬間、その版はボツにしました。

是正は force でやりました。顔の違う素材はボツフォルダに隔離して以後使用禁止。全46カットのうち22カットを、顔が安定している系統の素材へ意味を保ったまま差し替え。差し替え先がないカットは、後述のやり方で新規に生成しました。おかげで今の版は、最初のカットから最後のカットまで同じ子です。当たり前のことに、ものすごく手間がかかりました。

作り方3: 小指のやくそくと、ピンクの髪の事故

「私が大人になるまで、まっててくれる…?」の小指のクローズアップは、AI生成がいちばん苦手な絵です。手の形は動かすとすぐ崩れる。そこで発想を逆にして、手は完全に固定、動くのは髪と光だけ、という指示で生成しました。逆光の中で小指がまっすぐ立ったまま、髪だけがなびく。結果的にこの曲の「約束」そのものみたいな画になりました。

ただし一発では決まっていません。動きを強くしようと「強い逆光」を足した版は、なぜか彼女の髪がピンク色に染まって出てきました。光の演出語は色まで持っていくらしい。「髪はダークブラウンのまま」を明示して作り直して、ようやく採用です。生成AIは、指示した以外のところが動く。これを何百回学んでも、また新しい形で学ばされます。

逆光の小指 ©amanojak
逆光の小指。手は固定、髪と光だけが動く ©amanojak

作り方4: 存在しないシーンは、実フレームから発明する

ラスサビの「先生のとなりを歩ける、その日まで」。この曲の到達点の歌詞なのに、手持ちの素材に「ふたりで並んで歩く画」が1枚もありませんでした。そこで、本編に実際に映っている彼女の後ろ姿と、先生の後ろ姿を切り出して1枚に合成し、それを下絵にしてローカルGPUの動画生成で「ふたりが並木道を歩く」動きを作りました。下絵が本編の実フレームなので、リボンも制服もスーツも完全に本人たちのままです。

「先生がとなりに来てくれるから」で先生が机の前に立つカットも同じ作り方です。最初の生成では、無人のはずの画面に赤い髪の知らない女の子が湧いてくる事故があって、「人物を追加しない」を明示して作り直しました。AIとの共同作業は、こういう小さな交渉の積み重ねです。

ふたりで歩く後ろ姿 ©amanojak
ふたりで歩く後ろ姿。本編の実フレームから合成生成した1カット ©amanojak

作り方5: 「止まらないMV」を数字で保証する

過去作で「映像が何度も止まる」という手痛い失敗をしているので、今回は静止をツールで検出して機械的に潰しました。0.5秒以上ピクセルが止まる箇所ゼロ、を合格条件にして、全カットの切り出し位置を動きのある区間へ調整。素材が全部24fpsだったので、書き出しも24fpsに統一して、フレームの水増しもゼロにしています。最後は理屈ではなく数字です。

前日談: 一度ぜんぶ捨てた

実はこのMV、公開の2日前に一度「完成」しています。その版は46カット中27カットが静止画のズームでできていて、通しで観ると映像が何度も止まって見えた。音楽は流れているのに絵が死んでいる。MVとして一番やってはいけないやつです。翌朝、その版をフォルダごと封印して、動いている素材だけで作り直すと決めました。

遠回りに見えて、この全ボツが今回の分岐点でした。止まらない絵で組み直す過程で顔の混在に気づき、顔を直す過程で歌詞のズレに気づき、ズレを測る過程でボーカル波形のタイムラインが手に入った。失敗はだいたい、次の工程の入口になっています。

こぼれ話: 眠っていた27本の動画

作り直しの途中、生成サーバの出力フォルダから「作ったのに使っていない動画」が27本も出てきました。以前のバッチ生成を中断したときの成果物で、存在をきれいに忘れていたんです。この中に、頬づえの嫉妬顔や、教室で待つ姿など、今回の要所を埋めるカットが眠っていました。

「先生がほかの子とお話してると」のシーンは、この発掘素材のひとつです。頬づえをつく彼女のうしろで、本当に先生がほかの子と話している。嫉妬の歌詞と画面が一枚の絵で成立した、今作いちばんの奇跡のカットでした。教訓はシンプルで、作ったものは捨てる前に棚卸しをすること。AI制作は生成量が多いぶん、資産の管理がそのまま画のクオリティになります。

こだわり: タイトルロゴとサムネイル

タイトルロゴは教科書体で自作しました。学校が舞台の曲なので、教科書の文字がそのまま恋をしたような佇まいにしたかった。白抜きにコーラルの縁取り、最後に手描き風のハートをひとつ。サムネイルも夕窓の顔、逆光の小指、ふたりの後ろ姿の3案を作って、どの入口から来ても曲の芯に届くようにしています。

あとがき

この曲のラストは、歌が終わってから伴奏だけが少し残ります。歌詞もそこで全部消える。彼女の「すきになっても、いいですか」に答えは返ってきません。返ってこないまま、夜の教室のノートにハートがひとつ残って終わる。初恋というのは、たぶんそういうものだったと思います。

63本目にして、いちばん小さな主語で、いちばん時間のかかった1本になりました。観てくれたあなたの初恋も、コメントでこっそり教えてください。

編集とスタッフロール

編集は自作の編集システム(KO-Studio)とスクリプト群でやっています。カット表をデータで持って、切り出し、色調整、字幕焼き込み、書き出しまでを再現可能なパイプラインにしてあるので、「あと1カットだけ差し替え」が数分で回せる。今回みたいに作り直しが多い制作では、これが生命線でした。

スタッフロールはアウトロの夜の教室に重ねて流れます。中身は「さくし・さっきょく: ME」「かんとく: ME(え?おれ?)」「せいさく: ME(ぜんぶ、おれ)」。ひとり制作の様式美です。画面の隅でゆらゆら漂う透かしロゴも今回から少しゆっくりにして、4隅を不規則に移動するようにしました。最後の1行まで見てもらえたらうれしいです。

技術メモ: 今回使ったもの

映像の土台はGrok Imagineで生成したアニメーションフッテージ。足りないシーンは手元のGPUでComfyUI(HunyuanVideo)を回して自家生成しました。ボーカル分離、単語タイムスタンプ認識、静止検出、波形の相互相関チェックまで、検品は全部ローカルで完結しています。クラウドの生成サービスに月額を払うより、家のグラボに電気代を払うスタイルです。

カット割りのデータは70カット分をすべて表で管理していて、どのカットがどの素材の何秒目からか、色をどれだけ暖かくするかまで1行ずつ書いてあります。作り直しのたびにこの表だけ直せば、あとはスクリプトが同じ品質で再構築してくれる。AIに絵を任せるぶん、人間は設計と検品に全部の時間を使う。63本作ってたどり着いた、いまのところの結論です。

楽曲配信

この曲は各音楽ストア、サブスクで配信中です: https://linkco.re/hunZe37D

それでは本編をどうぞ。高評価とチャンネル登録が次回制作の何よりの励みになります: YouTube チャンネルはこちら

本作はAIで生成したフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。楽曲・映像 ©amanojak (CC BY-NC-SA 4.0)